シリーズ第3回は、マスクで行うNPPV(non-invasive positive pressure ventilation:非侵襲的陽圧換気)の設定です。第1回で基本ダイヤル、第2回で挿管下の換気モードを整理しました。NPPVはIPAP・EPAPという独自の設定語彙を持ち、在宅や病棟の慢性期管理で理学療法士が最も出会いやすい人工呼吸でもあります。本記事では、IPAP/EPAPの意味、S/Tモード、そして換気量保証機能(AVAPS)までを整理します。
NPPVの基本設定——IPAPとEPAP、その「差」が意味するもの
NPPVでは、吸気と呼気で2つの圧を設定します。
- IPAP(inspiratory positive airway pressure:吸気気道陽圧):息を吸うときにかかる高い圧。換気(息を入れる)を補助する
- EPAP(expiratory positive airway pressure:呼気気道陽圧):息を吐くときにも残る低い圧。PEEP(呼気終末陽圧)に相当し、気道・肺胞の虚脱を防ぎ、酸素化を支える。加えて、NPPVの多くは1本の回路でマスクの排気孔から呼気を逃がす仕組みのため、EPAPによる一定の流れがないと吐いたCO2がマスク内に滞留し、それを吸い直してしまう(再呼吸)。EPAPには最低限の値が必要とされるのはこのためで、単なる酸素化の設定ではない
重要なのは、IPAPとEPAPの「差」がPS(pressure support:プレッシャーサポート)=換気補助の量になることです。
例:IPAP 12 cmH2O/EPAP 4 cmH2O → PS 8 cmH2O
- CO2が高い(換気を増やしたい) → IPAPとEPAPの差を広げる。CO2の排出量は「1回にどれだけ吐き出せるか×回数」で決まり、1回の量を増やすのは補助圧=差の役割だから
- 酸素化が悪い・気道が閉塞する → EPAPを上げる。つぶれた肺胞や、睡眠時に落ち込む舌根・咽頭を内側から押し広げる役割はEPAPが担うため(このときIPAPも一緒に上げないと差=PSが減り、換気補助が弱くなる点に注意)
BiPAPのモード——S・T・S/T
いわゆる「BiPAP」(本来はフィリップス社の機器名で、一般名はbilevel PAP)には、呼吸の始まりを誰が決めるかで3つのモードがあります。
- Sモード(Spontaneous):患者さんの自発呼吸をトリガーして補助。自発呼吸が安定している場合
- Tモード(Timed):設定した回数で時間的に強制換気。自発呼吸に頼れない場合
- S/Tモード:基本は自発トリガーで、自発が設定回数を下回ったときだけ時間強制がバックアップ。臨床で最も使われる
AVAPS——「圧」の機械で「量」を保証する
従来のNPPVはPS(圧の差)が固定です。すると、体位・睡眠・疾患の進行などで肺の状態が変わったとき、同じ圧でも換気量が変動してしまうという弱点があります(第2回で整理した圧規定換気と同じ理屈です)。
AVAPS(Average Volume-Assured Pressure Support:平均換気量保証圧支持)は、この弱点を補う機能です。
- 目標の一回換気量を設定する
- 機械が実測の平均換気量を監視し、目標に近づくようにIPAPを設定範囲(最小〜最大)内で自動調整する
- つまり「圧規定の快適さ」と「量規定の確実さ」のハイブリッド
適応として想定されるのは、肥満低換気症候群、神経筋疾患(ALSなど)、COPDの慢性期NPPVなど、夜間や経過とともに換気量が変動・低下しやすい病態です。なお、ResMed社の機器には目標を肺胞換気量に置く類似機能(iVAPS:intelligent volume-assured pressure support)があります。
臨床でのポイント:AVAPSでは圧が自動で変わるため、「昨日よりIPAPが高い」こと自体は異常ではありません。ただし、必要IPAPが日に日に上がっていくのは「同じ換気量を保つのに、より強い補助が必要になっている」=呼吸状態悪化のサインとして読めます。設定値だけでなく圧の推移を見る習慣が役立ちます。
臨床の要点——リハ・離床時に設定画面のどこを見るか
理学療法士が設定を変えることはありませんが、「読んで、変化を報告する」ことはリハの安全性と質に直結します。ここでも出発点は第1回と同じで、なぜNPPVを使っているのか——CO2が溜まる病態(II型呼吸不全)なのか、心不全による肺水腫なのか、神経筋疾患の換気補助なのか——を押さえておくと、離床で何が変動しうるかを予測できます。そのうえで、以下を確認します。
- モードと設定値:換気の補助量(PS・目標VT)はどれくらいか。補助が少ない設定で運動負荷をかければ、呼吸仕事量はそのぶん患者さん自身にかかる
- 実測値:VT・RR・分時換気量・リーク量。特にリークはNPPV特有の要注意項目で、体位が変わるとマスクの当たり方がずれて増える。リークが増えると設定どおりの圧がかからないだけでなく、機械が患者の吸気を正しく感知できずトリガー不良や誤作動につながる。離床で姿勢を変えたあとは必ず確認する
- 同調性:トリガーの空振り(吸おうとしても機械が反応しない)、ファイティング(機械と呼吸がぶつかる)がないか
- 呼吸パターン:運動負荷で呼吸数が増えて一回換気量が浅くなる「浅速呼吸」への変化は、補助量不足・負荷過多のサイン
- アラーム:何のアラームが、どの範囲で設定されているか。鳴ったときに「何が起きたか」を読めるように
- マスクと皮膚:鼻根部の発赤・潰瘍は長時間装着で起こりやすい。離床のたびに装着状態を見る機会があるという意味で、リハは皮膚トラブルの早期発見の場でもある
離床そのものの開始・中止の判断は、日本集中治療医学会のエキスパートコンセンサス(2017)が示す基準(呼吸数・SpO2・吸入酸素濃度・循環動態など)に準じます。NPPVではこれにリーク量とマスクの当たり方という固有の項目が加わる、と考えると整理しやすいでしょう。
設定変更の判断は医師・臨床工学技士の領域ですが、「離床でVTが◯◯まで低下し呼吸数が◯◯に増えた」と実測値の変化を言語化して報告できることが、理学療法士の強みになります。
まとめ
- EPAPは酸素化のためだけの設定ではない——マスク内にCO2が滞留して吸い直すのを防ぐ役割も担うため、下限がある
- NPPVはIPAPとEPAPの差=換気補助量(PS)。CO2は差で、酸素化はEPAPで考える
- BiPAPのS/Tモードは「自発トリガー+バックアップ強制」で最も使われる
- AVAPSは目標換気量を保証するためにIPAPを自動調整するハイブリッド。圧の推移が病状の変化を映す
- 理学療法士の役割は設定を「読み」、離床・運動時の実測値の変化を言語化して報告すること
参考資料
塩見一成『ぜったい必要な知識!人工呼吸器苦手意識克服セミナー』(セミナー講義資料)
日本集中治療医学会早期リハビリテーション検討委員会:集中治療における早期リハビリテーション〜根拠に基づくエキスパートコンセンサス〜.日集中医誌 24(2):255-303,2017 [全文]
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、人工呼吸器の設定・変更は必ず医師の指示および各施設の規定に従ってください。記載の設定例は説明のための一例です。


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