「気胸でドレーンが入っている患者さん、離床を進めていいのか」——病棟で必ず出会う場面です。判断の土台になるのは、肺がなぜ縮んだのかという仕組みの理解です。本記事では、気胸の病態を「胸腔内の陰圧」から説き起こし、見逃してはいけない緊張性気胸、治療の考え方、そしてリハビリテーションでの関わり方までを整理します。
なぜ肺は「勝手に」縮むのか——胸腔内陰圧と弾性収縮
肺と胸壁の間には胸膜腔というすき間がありますが、正常では空気はほとんど存在せず、常に陰圧に保たれています。肺は自らの弾性で縮もうとし、胸郭は外へ広がろうとする——両者が引き合うことで陰圧が生まれ、肺は胸壁に「貼りついた」状態を保っています。吸気では横隔膜と胸郭の運動で胸腔が広がり、陰圧がさらに強まって、肺が受動的に膨らみます。
気胸は、このすき間に空気が入り込んだ状態です。陰圧という「支え」が失われると、肺は外から押し潰されるのではなく、自らの弾性収縮力で縮んでいきます。「勝手に縮む」ように見える理由がこれです。この理解は後述の治療にもつながります。空気を抜いて陰圧を回復させれば、肺は再び膨らめるわけです。
気胸の分類——「なぜ起きたか」で分ける
自然気胸
- 原発性自然気胸:基礎疾患のない気胸。20歳前後の長身・やせ型の男性に多く、肺尖部にできた脆弱な嚢胞(ブラ・ブレブ)の破裂で発症する。喫煙はリスクを高める
- 続発性自然気胸:基礎疾患のある肺に起こる気胸。COPD(肺気腫)が最多だが、間質性肺炎、肺癌、月経随伴性気胸(胸腔内子宮内膜症)など、原因は幅広い。もともと呼吸予備能が低い肺に起こるため、同じ虚脱でも重症化しやすい
外傷性・医原性気胸
肋骨骨折などの外傷、中心静脈カテーテル挿入や胸腔穿刺などの手技に伴うものです。そしてもうひとつ、リハビリに直結するのが陽圧換気です。人工呼吸器は本来陰圧で行われる呼吸を陽圧で置き換えているため、脆弱な肺では圧損傷から気胸を起こすことがあります。人工呼吸器シリーズで触れた「圧損傷」の、最も具体的な帰結のひとつです。
重症度分類——胸部X線でどう見るか
国内では立位胸部X線での肺尖の位置による3段階が広く使われています。
- 軽度(I度):虚脱した肺の尖端が鎖骨より頭側にある
- 中等度(II度):I度とIII度の中間
- 高度(III度):肺が完全に、またはそれに近く虚脱している
ただし、この分類は治療方針をそのまま決めるものではありません。後述のとおり、近年は虚脱の程度よりも症状と全身状態の安定性を重視する流れがあります。
緊張性気胸——最優先で覚える病態
気胸のなかでも最も緊急性が高く、分単位の対応が求められるのが緊張性気胸です。
なぜ危険なのか。損傷部が一方弁(チェックバルブ)として働くと、吸気のたびに空気が胸腔へ入り、呼気で出ていけなくなります。胸腔内圧は陰圧どころか陽圧に転じ、患側の肺を完全に虚脱させるだけでなく、縦隔を健側へ押しやり、大静脈を圧迫して静脈還流を著しく低下させます。呼吸の問題が、閉塞性ショックという循環の問題に変わる——これが緊張性気胸の本質です。
急速に増悪する呼吸困難、頻脈、血圧低下、患側の呼吸音消失、皮下気腫、進行すれば気管の健側偏位。これらが揃えば、画像を待たずに緊急の穿刺脱気、続いて胸腔ドレナージが原則です。とくに陽圧換気中の患者は、機械が空気を送り込み続けるため急速に進行します。人工呼吸器装着中の急変では、常に鑑別の上位に置くべき病態です。
治療の考え方
保存的管理と酸素投与
軽度で症状が乏しければ、安静と経過観察で自然吸収を待てる場合があります。このとき酸素投与には胸腔内の空気の吸収を速めるという意味があります。血液側の窒素分圧を下げることで、胸腔内の空気(大部分が窒素)との分圧差が広がり、空気が血液へ溶け込みやすくなるためです。単なる低酸素対策ではない、という点は押さえておきたいところです。
脱気——穿刺脱気と胸腔ドレナージ
「脱気」とひとくくりにされがちですが、針で一度抜く穿刺脱気と、チューブを留置して持続的に排出する胸腔ドレナージは別の処置です。国内では従来、虚脱度(II度以上)を目安に脱気が検討されてきました。
一方、英国胸部学会(BTS)の2023年ガイドラインでは、虚脱の大きさではなく、症状と生理学的な安定性を軸に方針を選ぶ考え方が示されました。安定していれば大きな気胸でも保存的管理や外来管理が選択肢に入ります。国内の実務がすぐに変わるわけではありませんが、「大きさ=即ドレーン」ではない方向へ考え方が移りつつあることは、知っておく価値があります。
再発予防——胸膜癒着術と手術
空気漏れが遷延する場合や再発例では、肺と胸壁を癒着させる胸膜癒着術が行われます。
- タルク:成功率78%以上と報告される代表的な癒着剤。標準用量は4g程度で、10g以上の投与ではARDSのリスクが報告されている。日本では保険適用が悪性胸水に限られる
- ピシバニール(OK-432):強い炎症を惹起する。ベンジルペニシリンを含むため、ペニシリンアレルギーには禁忌
- 自己血:遷延性気胸に対して92.7%の成功率の報告があり(Chambers 2010)、副作用が少なく間質性肺炎の患者にも使いやすい
根治を狙う場合は胸腔鏡手術(VATS)でブラを切除・補強します。手術時間は1時間程度で、空気漏れがなければ術後早期にドレーンを抜去し退院となります。
リハビリテーションの視点
ドレーン留置中の離床
胸腔ドレーンは離床を止める理由ではなく、管理しながら動くのが基本です。ただし確認すべきことがあります。
- エアリークの有無:ウォーターシールの気泡は空気漏れを示唆する。呼吸状態やドレーンシステムの状態(接続部の緩みなど)と併せて確認し、運動前後の変化も観察する
- 排液ボトルの位置:必ず挿入部より低く保つ。移動時の持ち方をチームで統一する
- チューブの緊張・屈曲・事故抜去の防止:人工呼吸器の記事で述べた「1人で無理をしない」はここでも同じ。移動の動線を先にシミュレーションする
中止基準と再発のサイン
呼吸リハの一般的な安全基準として、日本リハビリテーション医学会の安全管理ガイドライン(第2版、2018年)では呼吸数30回/分以上で運動を中止することが示されています。気胸ではこれに加えて、突然の胸痛・呼吸困難の増悪・SpO2低下・新たな皮下気腫が再発や増悪のサインです。現れたら運動を中止し、ただちに報告します。とくにドレーン抜去後の数日は再発への警戒を続けます。
呼吸理学療法
呼吸状態の安定と合併症予防を目的に、評価に基づいて次のような介入を組み合わせます。
- 排痰療法:分泌物を除去し換気効率を上げる
- 胸郭可動性の維持・改善:呼吸運動を促し換気量を確保する
- 口すぼめ呼吸・腹式呼吸:呼気の流速調整と横隔膜の活用により、換気と酸素化を支える
- 呼吸補助筋のリラクセーション・呼吸介助:呼吸筋疲労を軽減する
いずれも「なぜ呼吸状態が安定しないのか」の評価が先です。また、エアリークが続いている間や脱気の前は、過度な胸腔内圧の上昇を招く介入は避けます。全身状態と併せて医師・看護師と共有しながら進めます。
臨床の要点
- 緊張性気胸のサインを言えるようにしておく——急速な呼吸困難・頻脈・血圧低下・呼吸音消失・皮下気腫。疑えば画像より脱気が先
- 陽圧換気中の急変では気胸を鑑別の上位に——機械が空気を送り続けるため進行が速い
- ドレーンは離床の禁忌ではない——エアリーク・ボトル位置・チューブ管理を確認し、チームで動く
- 酸素投与の意味を説明できるように——低酸素対策だけでなく、胸腔内空気の吸収促進
- 数値と流れの両方を持つ——中止基準(呼吸数30回/分など)を守りつつ、虚脱度より症状・安定性を重視する近年の流れも知っておく
まとめ
- 肺は胸腔内の陰圧で膨らみを保っており、気胸では支えを失った肺が自らの弾性収縮力で縮む
- 分類は「なぜ起きたか」——原発性・続発性(COPD最多だが原因は幅広い)・外傷性・医原性(陽圧換気を含む)
- 緊張性気胸は循環の病態。チェックバルブ→胸腔内陽圧→縦隔偏位→静脈還流障害。疑ったら画像を待たず緊急脱気
- 脱気には穿刺脱気とドレナージの2つがある。近年は虚脱度より症状と安定性を軸にする考え方(BTS 2023)が広がりつつある
- 再発予防は胸膜癒着術(タルク・ピシバニール・自己血)とVATS
- リハビリはドレーンを管理しながら離床が基本。中止基準と再発サイン(突然の胸痛・呼吸困難・SpO2低下・皮下気腫)を頭に置き、チームで進める
参考文献
Chambers A, et al: Is blood pleurodesis effective for determining the cessation of persistent air leak? Interact Cardiovasc Thorac Surg 11(4):468-472, 2010
Roberts ME, et al: British Thoracic Society Guideline for pleural disease. Thorax 78(Suppl 3), 2023
日本リハビリテーション医学会:リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン 第2版. 2018
ユニタルク胸膜腔内注入用懸濁剤(滅菌調整タルク)添付文書・審査報告書(用量・ARDSリスク・適応)
ピシバニール注射用(OK-432)添付文書(禁忌)
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療行為ではありません。体調に不安がある方や、具体的なリハビリの方法についてのご相談は、主治医または専門家にご相談ください。


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