ベルンシュタインの動作構築レベル|A〜Dの階層と「巧みさ」を理学療法士の視点で整理する

頭部のレントゲン様イラスト。脳幹・脊髄のシアンから大脳皮質のバイオレットへ色が変化し、運動制御の階層を表す(Bernstein levels)

「巧みな動き」とは何でしょうか。ロシアの運動生理学者ニコライ・ベルンシュタイン(Nikolai A. Bernstein, 1896-1966)は、この問いに対して、動作が複数の階層によって組み立てられているという枠組みを示しました。本記事では、その動作構築のレベルA〜Dを原典に沿って整理し、臨床でどう使えるかを考えます。

目次

なぜ「レベル」という発想が必要だったのか——自由度問題

出発点は、身体があまりにも多くの動き方を持っているという事実です。原典によれば、胸郭に対する指先の可動性は16の自由度に達します。さらに筋には弾性があるため、同じ指令が同じ結果を生むとは限りません

もし脳がこれらの自由度をひとつずつ個別に制御しているとすれば、計算量は膨大になり、現実的ではありません。ベルンシュタインは、運動制御の主要な問題を「冗長な自由度をいかに克服し、制御可能なシステムに変えるか」と定式化しました。これが自由度問題(degrees of freedom problem)です。

その解答として提示されたのが、動作構築のレベルです。レベル理論は自由度問題とは別の話ではなく、自由度問題に対する答えそのものという関係にあります。

動作構築の4つのレベル

各レベルには、それぞれ対応する神経基盤があります。原典の章題がそのまま神経解剖学的な名称になっている点が特徴です。

レベルA:筋緊張のレベル(赤核脊髄レベル)

姿勢の保持、体幹・頸部の平衡、筋の緊張と弛緩の調整を担います。神経基盤は中脳の赤核から脊髄に至る系(赤核脊髄路)で、前庭脊髄路や脊髄も関与します。「脊髄・延髄レベル」と紹介されることがありますが、赤核は中脳にあるため正確ではありません。

新生児期の強直性把握がこのレベルの働きで、成人でも物を握る際の背景として関与します。ほぼ完全に不随意で、意識に上りません。ベルンシュタインはこれを「脳の地下室にある」と表現しました。

レベルB:筋-関節リンク(シナジー)のレベル(視床-淡蒼球レベル)

多関節にまたがる筋群を、ひとまとまりの協調(シナジー)として動かします。神経基盤は視床と淡蒼球、すなわち錐体外路系の皮質下中枢です。「視床が重要」とだけ説明されることがありますが、淡蒼球が抜けています

歩行や表情、パントマイム、水泳や自転車の「コツ」にあたる感覚がここに含まれます。特に原典が重視するのは、多関節連鎖で生じる反力への対抗です。このレベルは外部環境を参照せず、身体を中心とした座標系で働きます。

自由度問題との関係で言えば、このレベルが中核です。たとえば四肢の30個の筋の制御を少数の制御に置き換えることで、問題そのものを単純化しています。

レベルC:空間のレベル(錐体路-線条体レベル)

外部空間の広さ・距離・角度・方向を知覚し、それに合わせて動く働きです。神経基盤は線条体と錐体路系であり、さらに2つの下位レベルに分かれます。

  • C1(下位空間レベル・線条体性):なぞる(tracing)動作。固定された座標系での合同
  • C2(上位空間レベル・錐体路性):写す(copying)動作。固定座標系から離れた相似

狙いを定めるリーチ、足を特定の場所に置く精密な歩行、弾道的な投げや振りの動作が該当します。

なお、このレベルを「連合野」と説明する記述を見かけますが、原典の名称は錐体路-線条体レベルです。ただし、このレベルを導く感覚入力は視覚野・体性感覚野に由来するとされており、この感覚入力側の話が変形して伝わった可能性があります。

レベルD:行為のレベル(頭頂-運動前野レベル)

複数の動作を連鎖させ、対象や課題に向けて意味のある行為を組み立てます。神経基盤は頭頂葉と運動前野です。

書字と発話がこのレベルで制御されることを、原典は「偶然ではない」と述べています。針・鉋・ノミ・顕微鏡・ペンといった道具の使用も列挙されており、障害像は失行に対応します。

このレベルの英語名は “level of actions”(行為のレベル)です。「Dexterity」と紹介されることがありますが、これは誤りです。Dexterityは書名であり、後述するとおり複数のレベルにまたがる運動の質を指す概念です。

その先——Group E

原典には、レベルDの上位にGroup Eという項目が存在します。言語、書字、音楽演奏、絵画、対象を伴わない模倣動作など、象徴的・抽象的な行為がここに含まれます。

ただしベルンシュタインは、これを単一のレベルではなく「群(Group)」として扱い、神経基盤の特定を断念しています(遠心性指令の生成に関わると思われる前頭葉を除いて)。1996年の英訳書の索引にもA〜Dの4項目しか立っておらず、Eは確立した名称を持ちません。後年の解説では「レベルDが運動の理性、レベルEが運動の魂」という対比が使われます。

動作を1つのレベルに割り当ててはいけない——先導レベルと背景レベル

ここが原典を読むうえで最も重要な点です。ひとつの動作を「これはレベルC」と単純に分類するのは、原典の意図に反します。

原典が挙げる「釘を打つ」の例で考えてみます。

  • 動作そのものはレベルCの弾道的な狙いを定める運動
  • レベルBが背景として、関節間の協調と反力への対抗を担う
  • しかし主たる協応制御はレベルD(対象に向けた行為)が行う

つまり動作は、先導レベル(leading level)と背景レベル(background level)の組み合わせとして記述されます。この見方ができると、「どこがうまくいっていないのか」を階層で切り分けられるようになります。

「巧みさ」とは何か——レベル名ではなく、協調から生まれる質

ベルンシュタインは、巧みさ(dexterity)をあらゆる外的状況に対して運動的な解決を見出す能力と定義しました。生じたどんな運動課題も、正しく・素早く・合理的に・機転をきかせて解決する力です。

重要なのは、巧みさと「よい協調」は別物だという点です。原典はこの混同を強く戒めています。

原典の論理はこうです。よい運動協調は巧みさの前提条件であり、レベルAの理想的な働きはよい協調の前提条件である——しかし前提条件であることと、それ自体を巧みさと呼ぶことは別だ、という整理です。ベルンシュタインはこれを、パンを焼くには小麦が要り、小麦が育つには雨が要る、それでも「パンを焼くのに雨が必要だ」とは言わない、というたとえで説明しています(『デクステリティ』の要旨)。

そして原典は、巧みさが現れるのはレベルC以上であるとし、2種類に分類しています。

  • 身体の巧みさ:先導レベルC(空間)、背景レベルB(および常にA)
  • 手・対象の巧みさ:先導レベルD(行為)、背景レベルCの両下位レベル、時にB

レベルAについては「背景としてのみ巧みさに寄与する」と整理されています。姿勢が崩れ、筋が弛緩した身体で巧みさを発揮しようとするのは「折れた鉛筆で書こうとするようなもの」だとベルンシュタインは述べました。姿勢制御を扱う理学療法士にとって、この比喩は使いやすいはずです。

運動学習——自由度の凍結と解放

レベル理論は、運動学習の過程も説明します。

初学者は、多自由度の統御に向いていない最上位のレベルを使って動作を実行しようとします。そのため起こるのが、自由度の凍結(freezing degrees of freedom)です。筋を同時に収縮させて関節を固め、動かせる自由度を減らして対処する。疲れやすく、非効率な状態です。

熟達に伴い、凍結していた自由度がひとつずつ解放され、同時収縮が減っていきます。並行して、動作の修正が背景レベルへ委譲されます。これが自動化です。

見落とされがちですが、原典は自動化に伴って依拠する感覚が入れ替わるとも述べています。レベルCの動作がレベルBへ委譲されると、視覚から触覚・固有感覚へ置き換わり、視覚的制御が排除されます。逆にレベルDからレベルCへの委譲では、視覚的な修正がむしろ導入されます。「見なくてもできるようになる」という現象の裏側に、こうした感覚の乗り換えがあるわけです。

臨床の要点——先導レベルは発達段階と熟達度で移動する

臨床で最も役立つのは、先導レベルが固定ではなく、発達段階や熟達度によって移動するという視点です。

同じ「歩行」でも、成人では目標地点へ向かうレベルCが先導し、体幹と四肢の連動は注意を向けずとも背景で成立しています。ところが歩行が未熟な幼児では、頸部・体幹の安定性が保たれていなければレベルAが先導となり、四肢のシナジーが未熟であればレベルBが先導になります。反復による自動化に伴って、先導レベルはより高次へ移っていきます。

この枠組みは、そのまま臨床の問いに変換できます。

  1. いま何が先導しているのか:目標に向かって動けているのか、姿勢を保つことに精一杯なのか
  2. 背景は成立しているか:先導レベルより下の階層が崩れていれば、上位を練習しても積み上がらない
  3. 自由度は凍結していないか:過剰な同時収縮は、課題が難しすぎるサインかもしれない
  4. どの感覚に頼っているか:視覚に依存した動作なら、まだ自動化の途上にある

ただし、下位レベルが整えば上位が自動的に良くなる、という一方向の図式にはしないことです。原典自身が「前提条件ではあるが直接の原因ではない」と留保をつけています。パンを焼くのに雨は必要ですが、雨が降ればパンが焼けるわけではありません。

まとめ

  • レベル理論は自由度問題への解答として構想された
  • レベルA=筋緊張(赤核脊髄)/B=シナジー(視床-淡蒼球)/C=空間(錐体路-線条体、C1・C2に分岐)/D=行為(頭頂-運動前野)。上位にGroup Eがあるが神経基盤は特定されていない
  • 動作は1つのレベルに割り当てず、先導レベルと背景レベルの組み合わせで捉える
  • 巧みさ(dexterity)はレベル名ではない。複数レベルの協調から生まれる質で、レベルC以上で現れ、身体の巧みさ(C主導)と手・対象の巧みさ(D主導)に分かれる
  • 学習は自由度の凍結→解放として進み、自動化に伴って依拠する感覚も入れ替わる
  • 臨床では先導レベルが今どこにあるかを見極める。ただし下位が整えば上位が良くなるという単純な図式にはしない

参考文献

  • ニコライ・A・ベルンシュタイン(工藤和俊 訳/佐々木正人 監訳):デクステリティ 巧みさとその発達. 金子書房, 2003
  • Bernstein NA: On Dexterity and Its Development. In: Latash ML, Turvey MT (Eds), Dexterity and Its Development. Lawrence Erlbaum Associates, 1996
  • Latash ML (Ed): Bernstein’s Construction of Movements: The Original Text and Commentaries. Routledge, 2020
  • 谷貝祐介:体肢間協応研究の実践的解説—Bernsteinの動作構築理論と力学系アプローチを中心に. 生態心理学研究 17(1):127-140, 2025

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療行為ではありません。体調に不安がある方や、具体的なリハビリの方法についてのご相談は、主治医または専門家にご相談ください。

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