「関節が硬くて動かない」——臨床で日常的に出会う場面ですが、その一言の中には、リハビリで改善が見込めるものと、構造的に動かないものが混ざっています。本記事では、関節可動域制限の切り分け方から、拘縮が起こるメカニズム、そして治療の考え方までを整理します。
まず「なぜ動かないのか」を切り分ける——拘縮と強直
関節可動域制限を見たとき、最初に立てるべき問いは「制限しているのは、関節の外側か、内側か」です。
- 拘縮(contracture):関節周囲の軟部組織の器質的変化によって、他動的な可動域が制限された状態
- 強直(ankylosis):関節を構成する骨・軟骨そのものの変化による制限。骨同士が癒合した骨性強直と、関節内が線維組織で埋まった線維性強直がある
この区別が重要なのは、改善の見込みがまったく違うからです。拘縮は軟部組織の変化なので、程度と時期によっては介入で改善が期待できます。一方、骨性強直は物理的に骨がつながっている状態で、徒手的な介入で可動域が広がることはありません。
なお、私たちが臨床で測定している可動域制限は、拘縮に筋収縮の影響が加味されたものです。痛みや緊張で力が抜けていない状態では、器質的変化そのものを評価できません。まず筋収縮の要素を取り除いたうえで測る——これが評価の前提になります。
責任病巣はどこか——皮膚・骨格筋・関節包
拘縮の責任病巣となる組織は、主に次の3つです。
- 皮膚:熱傷後の瘢痕や手術創など。関節をまたぐ部位では皮膚の突っ張りが直接可動域を制限する
- 骨格筋:不動や筋緊張の亢進によって変化する。拘縮の発生初期に責任病巣の中心を担う
- 関節包:関節を包む袋状の組織。不動が長期化した症例で主役になる
靱帯については、責任病巣としての関与に否定的な見解が示されています。不動によって靱帯はむしろ力学的に脆弱になるため、可動域を制限する側には回りにくいと考えられています。「硬くなって動かない」と聞くと靱帯を思い浮かべがちですが、主犯はそこではありません。
共通する病態はひとつ——コラーゲンの過剰増生(線維化)
責任病巣は3つに分かれますが、そこで起きている変化は共通しています。コラーゲンの過剰増生、すなわち線維化です。拘縮の治療ターゲットは、突き詰めればコラーゲンだと言えます。
骨格筋で起きること
不動によって、筋を包む筋周膜と筋内膜でコラーゲンが増生します。特に筋内膜での変化が著しく、その本態はタイプIコラーゲンの増生です。
ラットのヒラメ筋を用いた研究では、筋内のコラーゲン含有量は不動1週で有意に増加し、4週・8週とさらに増加していきます。重要なのは、この含有量と、筋を伸ばしたときの抵抗(他動張力)に強い相関があることです。つまり線維化そのものが、筋が伸びなくなる直接の原因になっています。
重篤な拘縮症例のヒト骨格筋では、本来筋線維があるべき場所が緻密なコラーゲンに置き換わっている像が観察されています。
皮膚・関節包で起きること——脂肪細胞の消失とコラーゲンによる置換
皮下組織や関節包の滑膜には、もともと脂肪細胞が存在し、これが組織の伸張性に大きく寄与しています。関節包でいえば、外層の線維膜はコラーゲンが密で伸びにくく、伸張性を担っているのは内層の滑膜のほうです。
不動が続くと、この脂肪細胞が萎縮・消失し、空いた間隙を埋めるようにコラーゲンが増生します。ラット膝関節では、不動4週後には滑膜の脂肪細胞がほとんど認められなくなり、滑膜と線維膜の境界が不明瞭になります。
さらに関節包では、コラーゲンが増えるだけでなく密生化——単位面積あたりに線維束がぎっしり詰まる変化——も起こります。増生と密生化の両方が、関節包の伸張性を奪っていきます。
「筋が短くなる」ことは主役ではない
不動によって筋の長さそのものも短縮しますが、これは拘縮の「誘因」であって「進行」の主役ではありません。
ラットのヒラメ筋では、筋長は不動1週で約11%短縮したあと、期間を延長しても変化しません。ところが筋の伸張性の低下は、不動4週まで期間に応じて進み続けます。短縮が止まったあとも硬さが進行する——この差を説明するのが、進行し続けるコラーゲンの増生です。
なぜ線維化が進むのか——発生と進行の二段構え
線維化が起こる仕組みは、発生期と進行期で担い手が違うと整理されています。
発生期(不動1〜2週)では、筋核のアポトーシスをきっかけにマクロファージが集積し、IL-1βとTGF-βの発現が高まります。TGF-βが線維芽細胞に作用して筋線維芽細胞への分化を促し、コラーゲンの産生が始まります。
ところが、これらの分子は不動2週で頭打ちになります。にもかかわらず線維化は進み続ける——その説明として登場するのが進行期(不動4週以降)の低酸素です。筋組織が低酸素状態に陥り、HIF-1αの発現が高まることで、線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化がさらに促進されます。HIF-1αは不動1〜2週では変化せず、4週・8週で有意に増加するという時間差が、この二段構えの根拠になっています。
ここで押さえておきたいのは、前期と後期で変わるのは「引き金」であって「産物」ではないということです。どちらの時期に作られるのもタイプI・IIIコラーゲンですが、その時間経過が異なります。タイプIIIは不動1週で増えたあと横ばいになるのに対し、タイプIは4週・8週とさらに増え続けます。後期に線維化を押し上げているのは、実質的にタイプIコラーゲンだと言えます。
点火役が炎症性シグナル、進行役が低酸素。この理解は、後述する治療戦略の転換にそのままつながります。
責任病巣は時間とともに交代する
拘縮を考えるうえで最も実務的に重要なのが、時期によって主役が入れ替わるという点です。
ラット足関節を最大底屈位で不動化し、組織を段階的に切除して制限因子を分解した研究では、下腿三頭筋を切除したときの可動域改善率が次のように変化しました。
| 不動期間 | 筋の切除による可動域改善率 |
|---|---|
| 1週 | 約80% |
| 4週 | 約55% |
| 8週 | 約36% |
| 12週 | 約25% |
一方、皮膚を切開したときの改善率は、どの時期でも約1割で一定でした。
読み取れることは明快です。不動の初期は筋が制限因子の大半を占めるが、期間が延びるにつれてその比率は下がり、代わりに関節構成体(関節包)の寄与が増していく。皮膚は常に一定の割合で関与し続ける。
おおまかには、1ヶ月程度までは軟部組織(皮膚・筋)由来が優位、2〜3ヶ月に及ぶと関節構成体由来が優位になります。ただし主役の交代時期は関節や肢位によって異なり、膝関節屈曲位のモデルでは2週、足関節底屈位のモデルでは4週と報告されています。
注意:ここに挙げた数値はすべてラットの実験モデルによるものです。ヒトの週数にそのまま置き換えることはできません。あくまで「早期は筋、長期は関節包」という順序と、その移り変わりの速さを理解するための材料として捉えてください。
エンドフィールで制限因子を絞り込む
臨床で制限因子を推測する手がかりがエンドフィール(end feel:最終域感)です。
- Hard(骨性):硬い金属的な突き当たり。骨同士の衝突や骨性強直
- Firm(弾性のある硬さ):関節包・靭帯の伸張。ゴムを引くような手応え
- Soft(軟部組織の接触):肘や膝の屈曲終末など、軟部組織同士が当たって止まる正常な感触
- Empty(虚性):疼痛のために、組織の抵抗を感じる前に患者が動きを止める
Emptyは他と扱いが違います。組織が硬いのではなく疼痛による防御なので、無理に伸張すべき状態ではありません。疼痛の原因検索が先になります。
拘縮の原因
- 不動:ギプス固定、安静臥床、麻痺による自動運動の消失。最も頻度が高い
- 筋緊張の亢進:痙縮などにより、特定の肢位に引き込まれ続ける
- 外傷後の炎症:損傷部の炎症が線維化のスイッチを入れる
- 術後:侵襲・疼痛・固定期間が重なる
- 疼痛:痛みを避ける肢位が習慣化し、その肢位で組織が短縮する
これらは連鎖します。痛い→動かさない→線維化が進む→さらに動かすと痛いという悪循環をどこで断つかが、臨床判断の要になります。
治療の考え方
ストレッチング・温熱・超音波
伸張運動(ストレッチング)、温熱療法、超音波療法は、いずれも拘縮の予防・改善効果が報告されている基本的な手段です。ラットを用いた検討では、他動的伸張運動が筋内膜のコラーゲン線維網の形態変化を抑え、不動終了後の間歇的伸張運動が可動域と筋線維横断面積の回復を促進することが示されています。
ただし、頻回に継続する必要があること、そしてすでに増生してしまったコラーゲンを即座に改善できる方法は、現時点で確立していないことも押さえておく必要があります。だからこそ「作らせない」——予防に重心を置く発想が重要になります。
「ストレッチは効かない」というエビデンスをどう読むか
ストレッチについては、Cochraneのシステマティックレビュー(Harveyら 2017、49研究2,135名)が「7ヶ月未満のストレッチは、神経疾患の有無を問わず関節可動域に臨床的に重要な効果を持たない」と結論づけています。臨床実感と食い違うと感じる方も多いはずです。
ただし、この結論が否定した範囲は限定的です。検証されたのは主にすでに生じている拘縮に対する介入であり、不動と並行して行う予防ではありません。また7ヶ月を超える期間は検証されていません。アウトカムも可動域・QOL・疼痛であり、組織レベルの変化ではありません。
興味深いことに、この結論は前述の「増生したコラーゲンを即座に改善できる方法は確立していない」という記述と矛盾しません。すでに線維化してしまった組織を短期間の伸張で戻すのは難しい、という点で両者は一致しています。
では「ストレッチで動くようになった」という臨床実感は何なのか。ひとつの説明は、器質的な線維化が戻ったのではなく、痛みや筋緊張という筋収縮の要素が取れて可動域が出たという見方です。冒頭で触れたとおり、臨床で測る可動域制限は拘縮に筋収縮が加味されたものです。この2つを分けて捉えると、実感とエビデンスは両立します。そして予防としての価値は、このレビューでは否定されていません。
電気刺激による周期的な筋収縮
近年注目されているのが、電気刺激で筋を周期的に収縮させるアプローチです。狙いは、線維化の進行役である低酸素状態の改善にあります。
興味深いのは刺激条件による差です。10Hzの単収縮を起こす刺激では、HIF-1α・TGF-β・筋線維芽細胞・コラーゲンのいずれも有意に抑制されたのに対し、50Hzの強縮ではHIF-1αへの効果が認められず、他の指標への効果も10Hzに劣りました。強く縮ませればよいわけではなく、筋のポンプ作用を働かせて血流を保つような刺激が有効である可能性を示しています。
温熱療法は、骨折後などで炎症が続いている時期には使いにくい場面があります。その代替としても電気刺激は位置づけられており、臨床応用に向けた開発が進められています。
薬物療法・外科的治療
- NSAIDs:炎症と疼痛のコントロール。疼痛による不動を防ぐ意味でリハビリの土台になる
- ボツリヌス毒素療法・バクロフェン:痙縮由来の場合に筋緊張そのものを下げる
- 関節授動術・関節鏡下の関節包解離・腱延長術:外科的な介入
なお、人工関節置換術は「拘縮の治療」ではありません。適応は変形性関節症や関節リウマチによる関節破壊であり、目的は疼痛の除去と機能再建です。
臨床の要点
- まず切り分ける:軟部組織性(拘縮)か関節構成体(強直)か。さらに測定値から筋収縮の影響を除く
- 時期から責任病巣を推測する:不動早期なら筋、長期化していれば関節包。皮膚は常に一定の関与
- 早期介入が有利な理由を理解する:線維化は不動1週から始まり、進行するほど戻しにくくなる
- 「動かす」ことの意味を捉え直す:伸ばすためだけでなく、血流を保ち低酸素を防ぐという意義がある
- 作らせないことが最大の治療:増生したコラーゲンを即時に戻す手段はまだない
まとめ
- 可動域制限はまず拘縮(軟部組織性)と強直(関節構成体)に切り分ける。臨床の測定値には筋収縮の影響も含まれる
- 責任病巣は皮膚・骨格筋・関節包。靱帯は不動で脆弱化するため、責任病巣としては否定的
- 共通する病態はコラーゲンの過剰増生(線維化)。骨格筋では筋周膜・筋内膜、皮膚・関節包では脂肪細胞の消失とコラーゲンによる置換として現れる
- 筋の短縮は誘因にすぎず、進行を担うのは線維化。短縮が止まったあとも硬さは進行する
- 線維化は発生期(炎症性シグナル)と進行期(低酸素)の二段構えで進む
- 責任病巣は時間とともに筋から関節包へ交代する(ラットモデル。ヒトへの週数換算は不可)
- 治療はストレッチ・温熱に加え、低酸素の改善を狙った電気刺激という方向が拓かれつつある
参考文献
沖田実:関節可動域制限の発生メカニズムとその治療戦略. 理学療法学 41(8):523-530, 2014 [全文]
岡本眞須美, 沖田実, ほか:不動期間の延長に伴うラット足関節可動域の制限因子の変化―軟部組織(皮膚・筋)と関節構成体由来の制限因子について―. 理学療法学 31(1):36-42, 2004 [全文]
本田祐一郎, 坂本淳哉, 中野治郎, 沖田実:関節可動域制限に対する基礎研究の動向と臨床への応用. 理学療法学 45(4):275-280, 2018 [全文]
Harvey LA, Katalinic OM, Herbert RD, et al: Stretch for the treatment and prevention of contractures. Cochrane Database Syst Rev, 2017 [全文]


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