気胸の病態
気胸は、肺から空気が胸腔内に漏れることで肺が萎縮し、呼吸が困難になる状態を指します。通常、胸腔はアコーディオンのように膨らむことで肺を膨張させ、呼吸を可能にしていますが、気胸ではその機能が損なわれます。
気胸の種類
- 外傷性気胸
- 外傷や医原性の手技によるもの。
- 自然気胸
- 原発性気胸:
- 20歳前後の男性に多い。
- 成長期の急激な胸郭の拡大により、肺尖部に脆弱な嚢胞(ブラ)が形成され、破裂すると発症。
- 続発性気胸:
- 高齢男性に多く、肺気腫が悪化すると発症。
- 呼吸困難が突然強くなることが特徴。
- 原発性気胸:
重症度分類
- 軽度(I度)
- 虚脱した肺の尖端が鎖骨陰影より頭側にある。
- 中等度(II度)
- I度とIII度の中間。
- 虚脱肺の肺尖部が鎖骨陰影より下(足側)に位置。
- 高度(III度)
- 肺の虚脱が50%以上、または完全虚脱。
- 緊張性気胸
- 高度気胸において空気漏れが続き、胸腔内圧が陽圧となった状態。
治療方針
1. 安静
- 軽度の気胸(I度)では、激しい運動を控えることで自然治癒する場合が多い。
2. 脱気
- II度以上の肺虚脱に適応。
- 胸腔ドレナージを行い、漏れた空気を排出。
- 入院管理が必要なケースが多い。
3. 癒着療法(胸膜癒着術)
- 空気漏れが持続する場合に、肺と胸壁を癒着させる。
- ただし、術後の呼吸困難などの後遺症が問題となることも。
使用される癒着剤
- タルク(ユニタルク®)
- 最も効果的な癒着剤で、成功率78%以上(メタアナリシス)。
- 10g以上の投与ではARDS(急性呼吸窮迫症候群)のリスクあり。
- 日本では悪性胸水にしか保険適用がない。
- ピシバニール®(OK432)
- 強い炎症を惹起できる。
- 癌性胸膜炎にも使用。
- ベンジルペニシリンカリウムを含むため、ペニシリンアレルギー患者には禁忌。
- 自己血
- 遷延性気胸に対して92.7%の成功率。
- 副作用がほぼなく、間質性肺炎の患者にも適用可能。
4. 胸腔鏡手術(VATS)
- 内視鏡を挿入し、破裂部位を切除・補強。
- 手術時間は通常1時間程度。
- 術後、空気漏れがなければ翌日ドレーンを抜去し退院可能。
- 退院後10日前後で外来フォロー。
5. リハビリテーション(呼吸機能の改善と合併症予防)
- 呼吸状態を安定させるため に理学療法介入を行う。
- 理学療法士は、なぜ呼吸状態が安定しないのかを評価しつつ、以下のような介入を行う。
- 排痰療法:気道内の分泌物を除去し、肺の換気効率を向上させる。
- 胸郭可動性の向上:呼吸運動を促進し、換気量を増加させる。
- 口すぼめ呼吸:呼気の流速を調整し、気道を開存させることで肺胞虚脱を防ぐ。
- 腹式呼吸:横隔膜を活用し、肺胞の拡張を促進することで酸素化を改善する。
- 呼吸筋疲労改善:呼吸介助や呼吸補助筋のrelaxationを行うことで、呼吸状態を安定させる。
- 日本リハビリテーション医学会の診療ガイドラインでは、呼吸数が30回/分以上の場合に運動を中止する とされている。
- 気胸患者では過度な呼吸負荷が肺損傷のリスクとなる可能性があるため、慎重な対応が求められる。
- これらの介入を 全身状態と併せて評価しながら、医師と連携し、治療方針を決定する ことが重要である。
まとめ
気胸の診療においては、病態の理解に基づいた適切な治療選択が重要です。軽症例では安静管理が可能な一方、中等度以上では脱気や癒着療法を要し、再発例や難治性気胸に対しては胸腔鏡手術が考慮されます。特に、リハビリテーションの適応については慎重に検討する必要があり、呼吸状態が不安定な場合は運動を制限し、回復に応じて段階的にリハビリを進めることが推奨されます。最新のエビデンスをもとに適切な治療戦略を立てることが求められます。
参考文献
- Chambers A, et al. (2010). “Is blood pleurodesis effective for determining the cessation of persistent air leak?” Interact Cardiovasc Thorac Surg. 11(4):468-72.
- Rahman NM, et al. (2015). “Effect of Opioids vs NSAIDs and Larger vs Smaller Chest Tube Size on Pain Control and Pleurodesis Efficacy Among Patients With Malignant Pleural Effusion: The TIME1 Randomized Clinical Trial.” JAMA. 314(24):2641-53.
- Dryzer SR, et al. (1993). “A comparison of rotation and nonrotation in tetracycline pleurodesis.” Chest. 104(6):1763-6.
- 日本リハビリテーション医学会 診療ガイドライン. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/44/7/44_7_384/_pdf
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