クラインの運動学概念は、全身の運動連鎖を理解するために役立つ理論です。彼女は、身体を運動機能的特徴に基づいて以下のように分割し、各部分がどのように相互作用しているかを考察しています。
- 身体体節(Body segments: BS): 身体を頭部、胸部、骨盤、上肢、下肢の5つのセグメントに分けます。これらのセグメントがどのように影響し合い、抗重力活動においてどのような筋活動パターンが見られるかを分析します。
クラインの概念に基づく運動連鎖の分析は、身体の各部位がどのように連携しながら動作を生み出すかを理解するために不可欠です。以下に、その主要な概念について説明します。
1. パーキングファンクション(Parking Function)
パーキングファンクションとは、身体の一部が特定の位置に留まり、安定した姿勢を保つための機能です。この機能は、動作を行う前提としてのポジショニングに関係します。例えば、片麻痺の患者が端座位をとる際、骨盤が後傾しやすく、非対称な姿勢を取ることがよくあります。この状態では、下肢の支持機能が十分に働かず、体前傾しても骨盤後傾が残り、下肢が支持機能に移行しにくくなります。
パーキングファンクションの重要性は、動作準備における筋緊張の適切な調整(先行随伴性姿勢調節)にあります。外見上のアライメントが整っていても、筋緊張が不十分な場合、活動時にアライメントが崩れ、運動連鎖に障害が生じる可能性があります。そのため、筋緊張を整え、動作の準備を整えることが重要です。
2. テンタクル活動(Tentacle Activity)
テンタクル活動は、手足を空間で移動させる動作や、起き上がりなどの動作を指します。この活動は、運動連鎖の中でOpen kinetic chainに分類され、軽い身体体節が移動することが特徴です。具体的には、手や足を動かす際には、天井に向かって活動する筋群が使われます。この活動においては、支持点を安定させることが非常に重要です。
テンタクル活動の役割は、運動連鎖の中で動作を円滑に行うための基礎となるものです。運動発達の初期段階では、支持基底面に留まる機能がまず獲得され、その後にテンタクル活動が主体となる動作が発達します。これは、外乱が起きることで、自己組織的にシナジーが形成され、身体の軸や平衡機能を獲得するプロセスと考えられます。
3. ブリッジ活動(Bridging Activity)
ブリッジ活動とは、複数の支持点間にある身体体節を持ち上げる活動です。この活動は、運動連鎖の中でClosed kinetic chainに分類され、床に接する筋群が主に活動します。ブリッジ活動では、支持点を安定させるための能動的な制御が求められます。
注意すべき点として、ブリッジ活動を行う際には、他の筋群が代償的に働く可能性があるため、注意が必要です。例えば、臀筋を強化するためにブリッジトレーニングを処方する場合、腰部背筋や大腿直筋のシナジーで代償が起こることがあります。この場合、骨盤が前傾しやすくなるため、適切な筋群が活動しているかを触診で確認することが重要です。
4. ダイナミックスタビリゼーション(Dynamic Stabilization)
ダイナミックスタビリゼーションは、重力に逆らって姿勢を保持するための筋活動を指します。理想的な立位姿勢では、重心線が胸椎の前方を通過し、屈曲応力が作用します。この応力に対抗するために、脊柱起立筋が活動してアライメントを保持します。
ダイナミックスタビリゼーションの役割は、活動時に外乱や床反力からの影響を吸収し、安定性を確保することです。特に、体幹の機能を捉える際には、胸部と骨盤の相互関係が重要です。胸部を安定させた状態での骨盤運動や胸郭のわずかな回旋運動が、体幹のダイナミックスタビリゼーションを獲得するために重要です。
5. 支持機能(Supporting Function)
支持機能は、身体の一部が支持基底面に接し、その部位が床反力の影響を受けながら運動連鎖を安定させる機能です。この機能は、全ての関節が適切な位置にあることで効率的に発揮されます。支持機能を発揮するためには、余分な動作を制限することが重要です。
上下肢の支持機能においては、手部や足部の受動的な応力を打ち消す回旋方向の運動制御が鍵となります。治療では、手部と足部の可動性を確保し、空間定位や運動知覚を促進しながら筋力強化を行うことが求められます。
6. カウンターウエイト(Counter Weight: CW)とカウンターアクティビティ(Counter Activity: CA)
カウンターウエイトおよびカウンターアクティビティは、運動連鎖の中で平衡機能を維持するための重要な要素です。特に、リーチアウト(側方への重心移動)のような動作では、体幹のダイナミックスタビリゼーションと四肢のパーキングファンクションが重要な役割を果たします。
片麻痺患者の場合、麻痺側の上下肢がカウンターウエイトとして機能しにくく、非麻痺側でも支持機能が十分に発揮されないことがあります。これにより、運動の安定性が損なわれる可能性があります。
このように、クラインの運動学概念を理解することで、身体の各部分がどのように連動して動作を生成するかを深く理解することができます。これらの概念は、理学療法やリハビリテーションにおいて、患者の動作分析や治療計画の策定に大いに役立ちます。適切な筋活動や支持機能の確保は、効果的な治療を行うための鍵となります。クラインの理論を活用することで、より的確で効率的な治療を提供することが可能になります。
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